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国際的な総合科学雑誌Natureのオンライン版Nature.com*1に、プロモーション記事*2「Accelerating carbon capture using membranes」が掲載されました。本ページの内容はNature.com(2026年5月21日)に掲載された当該プロモーション記事を日本語に翻訳したものです。(日本語版文責:日東電工株式会社)
世界がカーボンニュートラルを追求する中、産業界からの二酸化炭素(CO2)排出は常に、目標達成を阻む最大の障壁のひとつであり続けている。
「炭素回収・利用・貯留」として知られる技術は、この問題の解決に役立つ重要な技術である。名前が示す通り、産業界などから排出されるCO2を回収し、何らかの用途で活用、あるいは貯留する。しかし現時点で広く普及するには、技術と経済の両面で複数の課題がある。
国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、地球全体の気候目標の達成をもたらすには、CO2の回収能力を2050年までに約37.4億トンまで飛躍的に引き上げる必要がある。これは2022年の回収量の約85倍にあたる。
「低コストかつ高効率なCO2回収技術の開発は喫緊の課題です」大阪に本社を置く高機能材料メーカーNittoの分離技術研究センター長 井原輝一氏は言う。
この20~30年でCO2回収技術は大幅に進化している。1990年代~2000年代、主要な炭素回収法はアミン水溶液を用いた化学吸収法だった。この方法では、排気ガス中のCO2がアミン溶液に反応し、可溶性の化合物となる。これにより、CO2を窒素など他の気体から分離することが可能になる。
だが、溶液の再生には大量の熱エネルギーが必要だ。製鉄所や発電所といった大規模なCO2排出源であれば最適の技術だが、素材工場や化学プラントなどのより小規模な施設の場合、溶液の熱再生中に発生する二次的な排出もあり、コストがかかりすぎるうえに運用が難しい。
「産業界の主要な排出源は、イノベーションと投資において最大の注目を集めています」と井原氏。「でも同時に、より小規模な運用に対応することも重要です。その場合はしばしば、異なる技術を使ったアプロ―チが必要になります」
Nittoは選択透過膜技術を市場にもたらすことで、このニーズへの対応を支援しようとしている。この技術は、小規模施設用に設計した極薄膜を使用しており、2010年代以降躍進を続けている。電力によるCO2回収を可能にし、従来のアミンを用いた方法と違って熱エネルギーは必要ない。これはより高効率なアプローチであり、電力は再生エネルギーから得られる。
「このアプローチには省エネ、コンパクト設計、スケーラブルな量産への高い潜在能力など、多くの強みがあります」と井原氏は言う。
50年以上にも及ぶ水処理技術の開発の結果、Nittoは膜製造において優れた専門技術を蓄積している。「この背景のおかげで、当社は脱炭素の世界で自社の膜技術を広めるための強い基盤を持っています」とNittoの事業開発本部長 北川祐矢氏は言う。
通常のサイズ選択型分離膜は、CO2に対してあまり有効とは言えない。井原氏の説明によると、「従来の膜はほとんどが分子ふるい(モレキュラーシーブ)として働き、サイズによって気体を分離します。ですが、我々がターゲットとする排気ガスでは、含まれるCO2の分子と窒素の分子はサイズがほぼ同じ。このため、根本的に異なるアプローチが必要です」
この目的に向けて素材の検討が行われているが、多くは限界に直面している。無機膜にはナノサイズの細孔が均一に配列されており、サイズに基づく分離を可能にしているが、それぞれの分子のサイズが近いときは性能が低下する。研究者たちは、サイズと化学反応について高い選択性を持つことで知られているハイブリッド材料の、金属有機構造体(MOF)について調べている。しかし、これらもコストが高いうえに、均一に量産するのが難しいという問題が解決されていない。製品化の実現性は限定的だと井原氏は言う。
![]() CO₂回収膜の研究開発を行うNittoの技術者 |
これらの課題を克服するため、Nittoの技術者たちは高性能ポリマー膜を開発した。この膜はCO2と強く相互作用する分子単位を含んでおり、CO2を選択的に溶解できる一方、窒素などの気体の溶解性は限定的である。膜を通る際の圧力勾配を発生させることにより、溶解したCO2が膜を通して拡散し、もう一方の側でCO2だけを集められる。
「この溶液拡散機構により、選択的で効果的なCO2の分離が可能になります」と井原氏は言う。
これらの膜は、Nittoの水処理システムでも実績のある、らせん形に巻きつけたモジュールの形で使用される。平らな膜シートを中心のコレクションチューブに巻きつけることでコンパクトな構造内で表面積を最大化し、高効率な気体の流れを可能にすると同時に、分離したCO2を中心部分に導いて回収できるような構造になっているのだ。
最適な性能のためには特別な製造技術が欠かせない。この膜は極薄かつ傷のない層でコーティングされ、多層構造を用いて高い流量と選択性を実現している。
![]() CO₂分離膜モジュール |
滋賀県にあるNittoの実証機では、実際の排気ガスを用いた試験の最終段階にある。膜を使ったシリンダー型のモジュールは幅20㎝、長さ1mで、北川氏によれば「弊社事業所内に設置され、空気清浄フィルターとほぼ同じように稼働しています」
このシステムは1回の処理ではなく、2段階に分かれて機能している。1段階式の膜システムでは十分なCO2純度は得られないが、2段階の構造であれば液体二酸化炭素やドライアイスに使えるくらい高い純度が可能になる。
地下での貯留にはより高いCO2濃度が求められる。これは膜技術を、圧力の変動サイクルにより気体を分離し選択的にCO2を吸着する圧力スイング吸着法など、他の方法と組み合わせることで可能になる。
Nittoは今後数年以内にこの膜を商用化することを目指しており、産業用ボイラーから排気されるCO2の回収をターゲットにしている。
たとえこの技術が実現可能だと証明されても、広く普及するかは回収した炭素の需要に左右される。「炭酸飲料用のCO2など、既に利用可能な用途はいくつかあるのですが、回収したCO2を材料にする合成燃料のような、大量の需要が発生する市場はまだ発展途上です」と北川氏は言う。加えて、貯留インフラ、規制枠組み、回収・輸送のコストも大きな課題だという。
技術的、商業的な課題はあるが、Nittoは次世代膜技術を進化させる取り組みを続けている。その一環として、Nittoはパートナーシップを拡大しており、その中には発電所など中規模排出源用炭素回収ソリューションの開発に向けた海外のスタートアップとの協力も含まれている。
Nittoは、環境・社会・ガバナンス(ESG)の原則に沿った技術のみを追求するという2022年に表明した方針に基づき、膜を基本とするCO2分離を超えた中長期的な展望を掲げている。
「我々の目標は、組み合わせることで『カーボンニュートラル』を実現できる技術のポートフォリオを作成することです」と北川氏は説明する。注目を集めているコンセプトの一つが、回収した炭素と水素ベース燃料を合成して生産したエネルギーキャリアを工場に戻すことで、より循環的な炭素のフローを生み出そうというものだ。
「2015年のパリ協定以前は、我々の仕事の範囲についてぼんやりとしたイメージしかありませんでした」と井原氏は言う。「ですが時間とともに目指す方向ははるかに明確になり、より良い未来に貢献しようという強い責任感が培われています」
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