2021年度は前年から続く新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の影響下にありました。コロナ禍を契機として、社会や経済の仕組み、人々の意識や価値観は大きく変化し、テクノロジーの進化は加速されました。目まぐるしく変化する外部環境の中で、Nittoグループが成長していくために、「伸ばすもの」「戻るもの」「戻らないもの」を見極める方針を打ち出し、成長戦略と構造改革の両輪を回す取組みを進めています。Nittoグループの特徴であるニッチトップ戦略として、伸ばすと判断した製品には投資を惜しまない。一方で、平時では難しい「止める」または「縮小する」という決断を、この方針のもとに経営として下すことができました。このように、「伸ばすもの」「戻るもの」「戻らないもの」というはっきりとした方針・わかりやすいメッセージを示すことで、従業員はためらうことなく業務にあたることができたのだと思います。
その結果として、当初の外部公表予想を大幅に上回り、売上高8,534億円、営業利益1,323億円という、過去最高益を達成することができました。
Nittoグループは、ESG(環境・社会・ガバナンス)を経営の中心に置くことで企業価値の向上に取り組んでいくこととしました。「非財務」という言葉がありますが、Nittoグループでは未だ財務にならずとも未来につながり、財務となって利益を生んでいくという意味を込めて「未財務」という考え方をしていきます。ESGもまさに将来のリターンの源となる「未財務」であり、中長期的に企業価値を向上させる資産、投資と捉えています。Nittoグループのブランドスローガンは「Innovation for Customers」です。これまでのNittoグループの100年は、顧客密着で懐に飛び込んでイノベーションを進め、利便性や世の中の進化に貢献してきました。今後は、「お客様」の概念を、直接の「顧客」だけではなく、さらにその先にある「地球環境」や「人類・社会」にまで広げていきます。ニッチトップ戦略の中で、顧客に満足
いただく製品を提供することはもちろん変わりませんが、技術や品質だけでなく地球環境や人類に貢献する製品であることをすべての製品の前提としていきます。これにより、顧客から選ばれる企業となると確信しています。
こうしたサステナビリティに対する考えを全社の活動へと反映すべく、Nittoグループでは、2030年のありたい姿やサステナビリティ重要課題を設定しています。そして、それを実現するための中期経営計画「Nitto Beyond 2023」の策定においてもESG経営を中心に置くこととしました。ESGの取組みはグローバル社会に浸透し、市場のニーズは確実に変化していきます。変化を先取りする力を磨き、リスクや機会を的確に捉え、ESGの取組みを新たな事業機会へつなげて社会課題の解決と経済価値の創造の両立を実現していきます。
Nittoグループは、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を図るため、株主・投資家を含めたステークホルダーとの建設的な対話が重要であると認識しています。投資家や顧客は、財務情報だけではなく、環境や社会の課題にどれだけ取り組んでいるか、未財務情報を評価し、投資判断やパートナー選定を行う動きを加速させていると実感しています。中長期的な企業価値向上や持続的成長の実現のためには、財務目標と未財務目標をともに達成し、ビジネスとして収益を上げることをはっきりと示すことが重要です。
2022年度、Nittoグループは、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、TCFD)に賛同表明し、気候変動に関するリスクと機会や財務的な影響、その対応状況を開示しました。気候変動を経営課題と捉え、外部環境の変化に対する事業の強化と、リスクへの対策を適切に進めることで、外部環境の影響を受けにくい強靱な企業体質を構築していきます。
Nittoグループは慎重だが、言ったことはきちんと実行する企業であるという評価を投資家の皆様からいただいています。これはNittoグループのDNAであり、信用と信頼を得る源泉だと思います。TCFDをはじめ、ESG経営に関しても、実現できるという手応えを感じるまで役員全員で議論し、合意形成をしながらロードマップを描いていきます。
Nittoグループは、「次世代モビリティ」「情報インターフェース」「ヒューマンライフ」の3つを重点分野として位置づけています。
「次世代モビリティ」分野では、モビリティの安全性、効率性、居住性などに貢献する新製品を投入し、安心で利便性の高い生活の実現に貢献していきます。また、自動運転技術に欠かせないセンシングユニットに使用される電波吸収体など、CASE※分野に向けて、エレクトロニクス関連部材や機能性部材を積極的に展開していきます。
「情報インターフェース」分野においては、これまで高シェアを獲得している光学フィルムは、今後特にOLED向けへ注力していくとともに、技術革新が予想されるメタバース市場に対応する技術の確立を目指します。さらには、スマートフォン向け高精度基板やデータセンター向けの電子材料、半導体プロセス材料を成長ドライバーとして積極的に市場展開していきます。また、プラスチック光ファイバーなどの実用化を通して、スマート社会の実現に貢献します。
「ヒューマンライフ」分野は、前中期経営計画で重点3分野の一つとしていた「ライフサイエンス」から定義を新たにした分野です。「ヒューマンライフ」分野への取組みを加速するために、2022年4月にヒューマンライフソリューション事業部門を設立しました。次の収益の柱と捉えている核酸医薬品を含む医薬品や医療部材による貢献に加え、脱炭素社会の実現に資する製品開発に取り組み、地球環境との共生、人々の暮らしや生命に広く貢献する製品開発を推進していきます。
核酸医薬品に関する取組みを強化したことは、ESG経営におけるターニングポイントになりました。なぜなら、Nittoグループの技術が人の命を救うことにつながるからです。地球環境・人類に貢献する持続可能な事業に取り組んでいくにあたり、その責任の重さを痛感しながら、ESG経営を実現する決意を新たにしています。
また、この度Mondi社のパーソナルケア事業を買収しました。「ヒューマンライフ」分野のイノベーション創出のみならず、環境先進国であるドイツに事業基盤を持つことは、ESG経営の推進や欧州エリア機能の拡充によるグローバル経営インフラのさらなる強靱化にもつながるでしょう。技術や製品といった見えているシナジーのみならず、今はまだ見えていないシナジーに大きく期待しています。
※CASE(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)
Nittoグループでは、成長戦略と構造改革の実行や、新規事業の創出によって、よりバランスの取れた事業ポートフォリオへの転換を進めています。成長分野には資源投入を惜しまず、2023年度末までに核酸医薬原薬の受託製造やプリント回路基板の生産能力増強、新規事業の立ち上げ、M&Aなどに積極的に経営資源を投入する計画です。
「オプトロニクス」は、高いレベルのキャッシュフローを創出する事業であり、生産性の向上と高付加価値製品へのシフトにより、収益性を高めていきます。「インダストリアルテープ」と「ヒューマンライフ」は、事業成長をさらに加速することで2023年度末までにこの2分野が占める割合を42%とし、それ以降も段階的に引き上げる方針です。その取組みの一つとして、先述したMondi社からの買収を位置づけています。
新製品の開発コンセプトにも確かな手応えを感じ、自信を深めています。例えばメンブレン(高分子分離膜)事業ではこれまで水処理を手掛けてきましたが、さらにこの技術を応用して気体を分離する脱炭素社会の実現に資する革新的な発想が生まれています。
また、高分子材料メーカーとして、プラスチックの循環は大きな課題です。廃棄物の排出量削減を進めることはもちろん、脱炭素で循環型経済(サーキュラーエコノミー)を意識した新しいビジネスの創出を進めていきます。
Nittoグループは、今後も市場ニーズに素早く対応し、環境や社会に貢献できる製品やソリューションを業界に先駆けて世界に提供することで、さらなる飛躍を目指していきます。
繰り返し述べている通り、NittoグループではESGを経営の中心に置く方針を掲げていますが、それを従業員一人ひとりが自分事として日々実践するためには仕組みが必要だと思っています。そこで考えたのが、「環境・人類貢献製品」の認定制度です。
Nittoグループの強みの源泉は、「三新活動」と「ニッチトップ戦略」です。「三新活動」では、「新製品」「新用途」「新需要」の三つの「新」を追求しています。「ニッチトップ戦略」は、成長するマーケットにおいて、先行者のいないニッチ分野を見出し、独自の技術を活かすことによるシェアNo.1を狙う戦略です。この強みの源泉は変わることはないでしょう。しかしながら、今後、企業価値を高めていくためには、そこに「ESG」の視点が加わることが必須です。
「Nitto Beyond 2023」では、経営目標として、全体の売上高の35%以上が新製品となることを掲げています。その新製品は、環境負荷の低減や地球環境の良化に貢献する製品「環境貢献製品:PlanetFlags™」もしくは人類の生活の質(QOL: Quality of Life)の向上に貢献する製品「人類貢献製品:HumanFlags™」が大部分を占めている状態とする方針です。そして、将来的にこれらの製品が「グローバルニッチトップ™製品」になれば素晴らしいと考えています。
強みの源泉である「三新活動」や「ニッチトップ戦略」を戦略の柱として、サプライチェーン、バリューチェーン全体で協力しながら、好機を逃すことなく、成長軌道に乗せるために積極的な取組みを実行していきます。
2022年5月には、脱炭素社会の実現を加速するという強い意志を込めて、新たに「Nittoグループカーボンニュートラル 2050」を宣言しました。NittoグループのCO₂排出量を、2050年度までに実質ゼロを目指すこと、2030年度までに47万トンとすること、事業プロセスだけでなく製品やソリューションを通じてお客様のCO₂排出量削減に貢献することを表明するものです。その実現のために、2030年度までに約600億円の投資を計画しています。CO₂排出量に関しては、2030年度の目標値を当初は60万トンと定めていましたが、脱炭素社会の実現に向けて、2013年度比約40%削減となる47万トンという、より高い目標に修正しました。当初目標であった60万トンは2025年度までに前倒しで達成する見込みです。新目標の設定にあたっては、どのような課題があるのか、何をどのような形で進めていくのか、役員・従業員が一丸となって膝を突き合わせて議論しました。宣言を口先だけのものとせず、実質ゼロに至るロードマップを全事業執行体がコミットしていることが、Nitto流のカーボンニュートラル宣言の特徴です。
気候変動は人類共通の課題であり、よりよい地球環境を将来世代に継承していくために、現世代のわれわれが真剣にその解決に取り組んでいかなければなりません。CO₂を削減することは、Nittoグループの持続的成長と、持続可能な環境・社会の実現に不可欠であり、企業として果たすべき重要な社会的責任であると認識しています。
Nittoグループが持続的な成長を遂げるためには、グローバルでの優秀な人財の確保や、従業員が常にチャレンジできる環境づくり、多様な人財が意欲を持って能力を発揮できる組織の構築が重要です。Nittoグループの従業員が身につけるべき価値観、心構え、行動基準を「The Nitto Way」として定めていますが、それを理解し実践できる「Nitto Person」を育成することが重要だと考えています。
2021年度には、グローバル全従業員を対象として、エンゲージメントサーベイを実施しました。エリアによって、また携わっている事業によっても文化が違います。今回のサーベイでは、安全やNittoグループが目指すビジョンに対する意識が高いことなどの現状を把握できたことが大きな収穫でした。
また、Nittoグループでは「Nitto Beyond 2023」の重要課題の一つであるダイバーシティを推進しており、特に女性の活躍を重点的な取組み課題としています。2022年度には組織を牽引するリーダーの育成を目的としたプログラムをスタートさせ、やる気を持ってチャレンジする女性を応援していきます。日本国内の各拠点では、すでに管理職となった女性が中心となって、女性活躍のための意識や風土、会社の制度や仕組みについて議論と検討を行う小集団活動を行っています。このような従業員の自発的な取組みを今後も積極的に応援し、多様性にあふれる企業文化を創り上げていきたいと考えています。
Nittoグループは、「安全をすべてに優先する」というスローガンのもとに、あらゆる事故・災害をゼロにすることを目指しています。拠点ごとにリスクを抽出して、ハード面、ソフト面双方から施策を行っています。例えば、製造現場での回転体や薬品によるリスクなど、リスクをランク分けして、リスクの高いものから事故の撲滅を図るなど、危険度に応じた対策を、グループ一丸となって粘り強く続けてきました。特に、設備稼働部への手出し重大リスク対策を重点課題と位置づけ、トップ自らが率先して現場に入ってリーダーシップを発揮し、安全対策の設備投資や、安全教育を徹底してきました。
安全に対する文化は浸透してきていると感じていますが、定めたルールを守り・守らせる安全文化をさらに昇華させていくことが重要です。企業にとって安全性向上への努力を継続することは、風通しのよい、いきいきとした組織をつくることであり、品質・生産性の向上にもつながります。従業員一人ひとりが自分事として自律的に安全意識や行動を改善し、安心・安全な職場を実現していきたいと考えています。
Nittoグループが持続的に成長していくためには、従業員と従業員の家族も含めた「人財」が最も重要な資産だと考えています。私はとにかく安全が最優先であることを従業員に向けて伝え続け、ハード・ソフトの両面、身体的・精神的側面の両面から取り組んでいきます。
ESGを構成する3つの要素のうち、ガバナンス(G)は環境(E)、社会(S)の課題に対処するための大前提となるものであり、中長期的な企業価値向上のために不可欠であると認識しています。そのため2021年度、経営インフラ基盤の強化の一つとして、複数のクラウドソリューションと連携したマルチプラットフォームで、基幹システムを刷新しました。海外拠点にも展開することを前提としたグローバル標準のERP(統合基幹業務システム)で、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を加速していきます。
新システムの導入によって、営業や経理、調達、人財といったあらゆる領域の業務システムとシームレスな連携が可能となり、必要なデータを統合することによって、経営の意思決定のスピードをより一層高めることができます。2022年度は、本システムのグローバル展開に着手し、特にアジアの各拠点へ展開する計画です。グローバル全体での生産状況や各指標を2025年度までに見える化し、世界のどこで何が起こっているのかを把握することで、変化に対応した施策をタイムリーに打てるようにしていきます。
Nittoグループは日本を含む28カ国へ事業展開し、100社近いグループ会社を持ち、3万人弱の従業員を抱えています。地政学的なリスクがサプライチェーンに大きな影響を与えることに配慮しながら、どう事業を継続し、成長していくか。コロナ禍や紛争、環境問題など、われわれを取り巻くさまざまな問題に危機感を持ちながらも、外部環境の影響を受けにくい強靱な企業体質を構築し、経営課題への取組みを加速していきます。
2018年、Nittoグループは100周年を迎えました。次の100年に向けて、力強く持続して成長するために必要なものは何か。大きな節目となる時期にトップを務める者として、次のビジョンを描かなければいけないと、その頃から強く感じてきました。地球環境と人類、そして社会に貢献できる事業活動を通して、社会課題の解決と経済価値の創造の両立を実現する。すなわち、ESGを中心に置いた経営を推進することこそが責務であると、今、思いを新たにしています。
日東電工株式会社
代表取締役 取締役社長
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