永山祐子 (建築家) 光を制御する技術に、表現の可能性を見る

1975年、東京都生まれ。昭和女子大学生活美学科卒業後、青木淳建築計画事務所を経て、2002年に永山祐子建築設計設立。現在は昭和女子大で非常勤講師、武蔵野美術大学で客員教授を勤める。
photo by Takayuki Abe

「2020年ドバイ国際博覧会 日本館」をはじめ、国家戦略特別区域計画の特定事業として開発が進められる「東急歌舞伎町タワー」の外装デザインや「東京駅前常盤橋プロジェクト」の低層部デザイン、住宅や商業施設まで幅広い仕事を手がける建築家、永山祐子氏。生物物理学者の父をもち、学習用実験キットを通じて偏光板などに慣れ親しんできたという永山氏の独特の視点が存分に活かされたのが、初期作「LOUIS VUITTON 京都大丸店」のファサードデザインだ。

京町家の縦格子とルイヴィトンの古いトランクにあったパターンを引用し、偏光板を用いて視覚に訴える厚みのない縦格子を表現した。その後も永山氏の作品は、建築的なダイナミズムと巧みなディテール、そしてユニークなアイデアと美しい表現を織り交ぜながら、さまざまな人々を魅了しつづける。そんな彼女は『RAYCREA』の試作品を手に取ると、まずはサイン計画に用いるのが面白そうだとアイデアを語り始めた。

京都の四条通に面した「LOUIS VUITTON 京都大丸店」(現在せず)のファサードでは、偏光板を用いて厚みや質感のない黒い格子を表現。偏光板の特徴から、歩く人の目には格子が回転したり、消えるなどの動きを見せる。立ち止まると格子も静止するキネティックな建築を実現した。©Daici Ano
麻の葉文様、アラベスクという日本とイスラムにおける二つの文様を組み合わせた立体格子をファサードとした「2020年ドバイ国際博覧会 日本館」。小さな膜が日差しを遮り、水面に美しい影を落とし、風を視覚化する。水盤により気化熱で冷やされた風を建物に取り込むという、日本や中東で古くから用いられるシステムも含め、両者に通底する文化や技術を建物で繋ぐ。©2020年ドバイ国際博覧会日本館 提供
歌舞伎町の中心であるミラノ座跡地で建設が進む高さ約225mの超高層ビル「東急歌舞伎町タワー」には外装デザイナーとして参加。かつて沼地であった町の歴史を紐解き、噴水をコンセプトに美しいスカイラインを描いた。©永山祐子建築設計

光の制御による、新しいサイン計画の可能性

「『2020年ドバイ国際博覧会 日本館』ではガラス製の施設名称看板を設置していますが、ここに『RAYCREA』を使ってみたかったですね。というのも、ガラスに文字を入れているので裏側からだと鏡文字に見えてしまいます。これは以前から解決したいと考えている問題ですが、『RAYCREA』を活用すれば、表側は文字が見えるけれど、裏側からは透明なガラスのままに見せることができるかもしれない。フィルムで光の角度を制御すると見せたい方向に情報を掲出することもできそうです」

永山氏は同様に、公共施設や商業施設でも屋内外に設置するサインに使用したいという。複層的で立体的な施設ではサインが大きな役割を果たすが、四方八方から向かってくる歩行者に対してサインが指し示す方向がしばしば課題となる。『RAYCREA』の特性を使い、一定方向から歩いてくる利用者のみに情報を伝達するサインも考えられるのではないだろうかとアイデアを出す。さらにファサードで使っても面白い表現を期待できそうだという永山さんだが、同時に建築外装での使用には課題も多いと指摘する。

「建築の外装を実現するには、みなさんの想定以上に多くの課題を乗り越えなければなりません。『RAYCREA』を外部環境で使用した場合には、風雨や紫外線などへの耐候性、耐久性といった課題が想定できます。すでにこれらの課題は検討されていると思いますが、外部使用の実現には期待したいですね」

『RAYCREA』のサンプルを手にとる永山氏。フィルム素材への知見も高く、その可能性に注目する。
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永山氏の手元にあるのは「東急歌舞伎町タワー」の外装ガラスに用いたパターン出力見本。『RAYCREA』のフィルムにパターンを印刷することで、面白い表現も可能ではないかと考える。
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建築への可能性、インテリアへの可能性

永山氏は外装設計を手がける「東急歌舞伎町タワー」でも、さまざまな困難を乗り越えてきた。その一つとして、複層ガラスが外部に面する表面にグラフィックパターンを印刷した例を挙げる。

「『東急歌舞伎町タワー』のグラフィックパターンではガラス表面の光の反射で柄が認識できなくなってしまうことから、出力する位置を検証しました。こうした問題点や課題を乗り越えることで、これまでも建築を実現に結びつけてきたのです。『RAYCREA』は設置するLEDの表現で多彩な色を扱えるので、光のグラデーションや色の変化が空間のイメージを変えてくれそうです。フィルムにドットを印刷するなど、パターンを重ねての使用も面白そうですね」

一方で什器やインテリアでの使用は、すぐにでも実現できそうだと続ける。

「建築における外部使用には大きな障壁がありますが、什器やインテリアでの使用にはいろいろな挑戦ができそうです。たとえばガラスの棚板に面発光する『RAYCREA』を貼ると、棚板は透明に見えているのに発光面の下にある物を照らすことができるでしょう。Nittoさんのミラノでの展示では光そのものを見せていますが、光を対象物に当てて見せるという逆転の発想も大いに考えられるでしょう。一見してなぜ光っているかがわからない仕組みであり、人に驚きを与えることもできるのではないでしょうか。棚下の照明はコード類をきれいに納めることに苦心するのですが、『RAYCREA』はその問題も解決してくれそうです」

東京・二子玉川の「玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ」の共有部と2Fに新設されるカフェの改修プロジェクト。2本のコードをネックレスのように繋ぎ、669個の電球をドーム状に吊した。これによって天井はまるでドーム屋根に覆われたかのような、心地よい籠もり感をもたらしている。©Daici Ano
2022年2月に開業した大阪・心斎橋の「YAMAGIWA OSAKA」。照明器具の製造や販売を行う同社の新しいショールーム・オフィスを設計。屋根型の可動式ルーバーを配し、住空間やオフィスなど、さまざまなシーンを来場者に想起させながら、光の美しさを表現する空間とした。©Nobutada Omote

アイデアによって、表現の可能性は広がっていく

永山氏は、商業施設の共有部を改修する「玉川髙島屋S・C本館グランパティオ」で照明デザイン賞最優秀賞を受賞した。インテリアにおける巧みな光の扱いに、評価も高い。

「いまは照明器具そのものを見せない空間が求められがちです。ですが『玉川髙島屋S・C本館グランパティオ』では、あえて照明器具そのもので空間をデザインするという発想から計画を始めました。そこで注目したのが、照明器具でも特に嫌われる配線と灯体です。配線の細い線は配置次第で美しい表現が可能ですし、光が反射すると純粋にきれいですよね。そこでネックレスを編むように、通電用、落下防止用の2つのラインを組み合わせて構成しました。防災拠点施設のため、国土交通省が指定する特定天井という大きな条件もありました。それらをクリアしながら、構造や技術的な問題の解決、安全性の確保、メンテナンスなどの機能性、そしてデザイン性を包括したうえでデザインしています」

こうした課題を乗り越えるように、『RAYCREA』はアイデア次第ではユニークな表現も考えられるだろうと永山氏は示唆する。

「照明は、建築におけるさまざまなパーツで最も発展を遂げている要素だと言えます。昔だったらできなかったようなことができるようになり、表現も進化を続けています。『RAYCREA』の登場で、そこに新たな可能性が生まれるのかもしれません」