面出薫 (建築照明デザイナー) 光の新たな表現を予感させる技術

Nittoの新しい技術『RAYCREA』を紹介するミラノデザインウィークの展示「Search for Light」。その会場構成を手がけるのが、建築照明デザイナーの面出薫氏だ。40年以上にわたり、数々の建築に光を与え、街に光を灯してきた光のプロフェッショナルは『RAYCREA』との出合いを「まずはなにより驚きました」と振り返る。
「今回、私たちは『RAYCREA』の技術から生まれたフィルムを使って会場構成を行います。私が照明デザインの仕事を始めたころ、光の制御といえばリフレクターと光源の組み合わせが主流でした。やがてそこにレンズと光源の組み合わせが加わります。そして『RAYCREA』の登場によって、光の制御はリフレクターやレンズなどの厚みや重さがあるものから膜(フィルム)という軽やかな素材に到達しました。フィルムの薄さと軽さは、光のデザインにさらなる可能性を与えるものです。曲面のような形状にも貼ることができ、宙に浮く素材にさえ光を与えることができるかもしれません。『RAYCREA』は光をデザインする私たちに、新しい時代の到来を予感させる技術です」

1984年、オーストリアのグラーツで開催された展覧会で、建築家の原広司氏とともに面出氏が発表した作品『影のロボット』。

良い光には感情に届く表現が必要

面出氏は「Search for Light」で、『RAYCREA』のフィルムを貼ったアクリルの板に宿る光を重ね、美しい色彩と浮遊感ある光の空間を構成する。そもそも面出氏にとって光をデザインするとはどのようなことなのか。
「建築における照明は、まず論理性を重視します。ただし、良い光のデザインには理屈を越える表現が必要です。ですので、私は照明のデザインにおいて8割の論理性、そして感情に作用する2割の表現力を求めます。はじめて『RAYCREA』を見たときに理屈で説明ができない感動を得ました。それはまさに後者に当たるもので、クリエイティビティを刺激する表現力と言えるでしょう。機能的に優れながら、アーティスティックな情景も生むことができるのです」
会場ではラビリンスをテーマとするインスタレーション「Play with Light」が来場者を迎える。『RAYCREA』のフィルムを貼ったアクリルパネルが幾重にも連なる光のラビリンスだ。パネルの積層で見たことのない光の世界を表現できるという直感があったと、面出氏はいう。
「私はかつて、建築家の原広司さんとともに『影のロボット』という作品を製作しました。アクリル板を重ねた20体のオブジェに光を加え、図像をつくりだすものです。原さんはこれを、さまざまな光が音を奏でるように多層的な世界を構築する“光のオーケストラ”だと表現しました。ただし当時は技術的な問題から視点が一点に限定され、そこに立たなければオーバーレイの驚きが表現されませんでした。しかし『RAYCREA』は移動しながら、光の多層的複層的な体験が可能です。これは迷宮のような体験を生み出せると考え、“光のラビリンス”という表現を選んだのです」

虚像と実像の境を行き来するような体験

面出氏は今回のために原寸大の展示空間を試作し、検証を行ってきた。もちろん数十年にわたって光を表現してきたプロフェッショナルゆえ、経験から想定される表現が大きく外れることはない。しかし今回は新しい技術ゆえ、サンプルや模型を見ながら何度も検証したものの、想定を上回る結果が出たと振り返る。
「私たちは光を表現するプロですが、実際には光を灯してはじめてわかることがたくさんあるのです。試作した空間の重なり合う光のレイヤーに立つと、私たちの実像が消え去り透明になるという効果など、虚像と実像の境を行き来するような体験が得られました。私たちはそこで、奥深い、未知なる“人-光-空間”という関係性が生じる可能性をみたのです。移動するたびに、それまで見ていた情景が変化する。これは片面が発光し、もう片面が透明性を保つ『RAYCREA』の妙がなせる技です。神秘的な光の森に迷い込む空間を、ぜひ皆さんにも早く感じていただきたいです」

シンガポール・チャンギ空港内の複合施設「ジュエル・チャンギ・エアポート」で面出氏は照明計画を担当。緑豊かな庭園と人工の滝で知られる施設内を昼夜通して、美しい光で彩る。

光をデザインすることは時間をデザインすること

この体験は、面出氏が追求してきた光の哲学にも重なるものだ。「光をデザインすることは時間をデザインすること」という面出氏は、光を通じて時間の流れを視覚化し、写真のように切り取られた一瞬ではなく、時間の経過とともにある立体的な体験を会場で表現したという。
「スーッと立ち上ってはふと消えていく光の表現をコンピュータで制御し、時間の流れを表現しています。おそらく会場では来場者がさまざまな視点をもって回遊することになることでしょう。これは『RAYCREA』と今回の会場構成だから表現できるものと自負しています。先入観をもたずに訪れた人は、これはなんだと驚くでしょう。そしてその疑問符が会場内で解き明かされていくのです。会場には子どもや大人、背の高い人や低い人、さまざまな職能を持つ人が訪れ、それぞれに違った感じ方をするでしょう。見るという視覚体験に限らず、身体を使って動き回ることで『RAYCREA』の可能性を感じ取っていただきたいですね」